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文章教室・錬成コース 8月の推薦作品から

 今月は8月の推薦作(課題「きらきら」800字)より、高塩秀雄さんの作品をご紹介します。
担当講師の推薦の評もご覧ください。

「きらきらと」 高塩秀雄氏作

(2012年8月課題「きらきら」)

 いわきの海は青々と穏やかだった。波の帯が日を浴びてまぶしく光る。私は友人のKと肩を並べて高台から海を眺めた。

 福島原発事故から一年ほどが過ぎていた。3世代同居のKは、とうとう県外移住を決断した。原発から三十数キロ圏にある故郷を去るという苦渋の選択をしたようだ。

 「未だに原子炉の中は誰にもわからない。放射能は相変わらず噴き出ている」

 Kは独り言のようにつぶやいた。

 東京は猛暑が続いていた。だが、首相官邸前の抗議行動は毎週行なわれ、「さよなら原発10万人集会」は代々木公園を埋め尽した。

 目をみはったのは参加者である。若者から高齢者、家族連れ、ベビーカーが何台も通り過ぎていく。愛犬を連れた人もいる。かつて、ヘルメット姿でKと隊列を組んだ七〇年安保の代々木公園集会とはまるで異なる雰囲気だ。私は炎天下の芝生で両腕が焼けた。目の前に三人の主婦が日傘を広げて座った。

 「ねえ、あんた、最近東京新聞がおもしろいわよ」「そうなの?」「私たちのデモが必ず次の日載っているのよ」

 日毎に勢いづく抗議行動。参加者一人ひとりが、きらきら輝いて見える。福島の事故は、原子力が人間の能力では処理しきれない現実と、便利で豊かな生活とは何かを突きつけた。エネルギー消費の抑制に目を向け、浪費社会の価値観を変えていかねばならない。集会の参加者は、内側から見つめ直そうとしている。声や表情に張りがあるのは、自分をも変えようと試みているからに他ならない。

 しかし、楽観は禁物である。福島が収束してないまま大飯原発を再稼働させ、次は高浜だと原発推進の方向へ巻き返しが進んでいる。

 大事なことは、福島を忘れないことである。和合亮一氏の『詩の礫』に「放射能が降っています。静かな静かな夜です。」とある。悲しみと怒りが心の奥底から湧きあがってくる。

 きらきらした人々の波を絶やしてはならない。

推薦の評

添削講師 阿部純和氏

 野田首相は、官邸前抗議行動の読みを誤ったようです。参加者と面談し、原発ゼロを目指すとどうなるか、検討を始めました。しかし、予断は禁物。我が国の財界人のモラルは低下し、それにつられた政治家もまだ大勢いるようです。暑かった今夏、電力不足にならなかったことは、心強い援軍です。原発なしでもこの国は十分にやっていけることが証明されました。このようにして世の中は、少しずつ変化して行くのでしょう。