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「文章教室・錬成コース」の推薦作品

 毎月、受講者作品から選ばれる、推薦作を1点ご紹介します。
担当の添削講師による、推薦の評もあわせてご覧ください。

「日誌の分数」 佐々木香代子氏作 

(2011年8月課題「割る」)

 老人施設に入居している父の日常は、何人かのヘルパーさんによって克明に記録される。

離れて住む私は、父を訪ねたときにひと月分の日誌を見て父の過ごし方を知る。この日はトイレの失敗がなかったとか、この日はご機嫌でたくさんおしゃべりしたとか。看守る目の優しさも感じて、楽しみでもある。

 中に食事の摂取量を記す欄がある。主食と副食に分かれた簡単な欄である。「何割」と、割合で書くヘルパーさんもいれば「何分の何」と、分数で記入するヘルパーさんもいる。

 その中で面白いのを見つけた。面白いと言うと意地悪だけれど……。分数ではあるのだが、8分の5とか、6分の4とか。分母が10のときはなく、約分もしない。時には分母より分子の数が大きくなっている。

 ヘルパーさんになったばかりの若い娘だ。もちろん大体の量を把握できればいいのだから、8分の5で構わないし、逆になっていてもひっくり返して理解する。それで分かる。

 でも見る度にやっぱり笑ってしまう。彼女も算数は苦手だったのだろうと思うと、微笑ましくて親しみが湧く。

 というのも、娘がそうだった。小学一年生のとき、割り算ならまだしも、思いもかけず引き算でつまずいた。それに気づいた私は、慌てて娘の勉強を見始めた。引き算はいずれできるようになるだろうけれど、つまずくことで「私はダメだ」と自信を無くすことが怖かった。ついつい厳しく教えたと思う。

 娘とあの頃のことを話すことがある。あのときのお母さんはコワカッタという。それにもう自信を無くしていて、本当は手遅れだったのよ、と他人事のように笑う。

 引き算にも割り算にもてこずったけれど、今は社会人としてどうにか働けている。あのヘルパーさんも、明るくて評判がいい。

 先日「最近よく召し上がってくださいますよ──」と言ってくれたので、日誌を見てみると「9分の8」が並んでいた。

推薦の評

添削講師 大口道雄 氏

 分数がうまく書けない、でも明るい、若いヘルパーさん──この筆者の文章は、リズムがよくて、楽しくすらすらと読めてしまいます。父上が収容されている老人施設の話で、重い内容を含むのですが……。

 小島さんと白井さんは、蝉の脱皮の観察記、館野さんは「割り切れない人生」、笠さんは大学の合格ラインを割った娘の思い出……それぞれのテーマの工夫に感心しました。